日本家政学会被服整理学部会 部会長挨拶

2023〜2024年度部会長 岩手大学 天木 桂子
 洗浄は,本部会が対象とする研究分野の一つですが,時代とともに変化する日常生活の影響を大きく受けるテーマでもあります.特に家庭洗濯では,洗濯行為に対する消費者の意識の変化の影響が大きく,例えば,コロナ禍を経て芽生えた衛生概念の厳格化,地球温暖化に伴ってもたらされる環境の悪化による節水・節電などのエコロジー感覚の高まりなどが,「何を洗う」「どうなったら洗う」「どうやって洗う」「何で洗う」の意思決定に影響を与え,結果として洗濯行動全体に変化をもたらします.さらに,消費者の意識の変化に伴って,購入する洗剤や洗濯機も変化します.現在,家庭用洗剤の主流は液体洗剤であり,2011年に粉末洗剤との逆転が起こって以降両者の差はますます広がっています.洗濯機は従来の縦型(パルセータ式)に加えドラム式が登場し,乾燥機能付きが普及するとともに,比較的評判が良いといわれている洗剤自動投入機能,消費者の好みを反映したより細かい洗濯コースの設定が可能になるなど,好みに合わせた洗濯ができるようになり,こうした多様化もまた現代のトレンドです.
 一方で,こうした変化を念頭にしながら研究テーマを探し,結果を社会に還元していく私たちの使命には大きな変化はありません.また,消費者の意識(好み)や道具の変化はあっても,洗浄の基本的原理は大きくは変わらないでしょう.研究者としては,変化するもの(こと)と変化しないもの(こと)の両方に対して絶えずアンテナを張り,自分の研究がこの中のどの位置にあるのか,得られた結果はどの部分に貢献するのかを常に意識しながら進めていくことが肝要だと感じます.さらに,自分の研究の立ち位置を知ることが,研究の意味を明確にしてくれるとともに,次のステップへのモチベーションにつながるのではないでしょうか.
 本部会のテーマである洗浄,染色,保管などを通じて,様々な世代の研究者がより豊かな衣生活につながる結果を少しでも得られることを期待したいと思います.そのためにも学会に積極的に参加し,研究成果を発表して他の研究者からのサジェッションをいただくことを通じて,本部会が社会への貢献や,研究者自身の成長につながる一助になってほしいと願っています.会員の皆様には,いろいろな場面で助けていただく機会も多くなると思います.どうぞよろしくお願いいたします.
2024.2.20